1 事案の概要
Xは、Yとの間でYの買い受ける黒砂糖をXがあっせんし、あっせん料として一斤について金××円をYがXに支払うことを約束した。Xは、同約旨に基づいて黒砂糖4,300斤をYにあっせんして買い受けさせたので、Yに対し、××円のあっせん料の支払請求をした。
控訴審は、XとY代理人Aとの間で本件契約が締結され、同契約に基づきXはその主張する数量の黒砂糖の買付をYにあっせんしたとの事実認定をし、Xの請求を認容した。
そこで、Yは、控訴審は当事者の主張していない代理人との間の契約締結を認定したことは、当事者の申し立てていない事項に基づき判決をした違法があるとして上告した。
2 最高裁の判旨
「民訴186条(現行民事訴訟法246条)にいう「事項」とは訴訟物の意味に解すべきであるから、本件につき原審が当事者の申立てざる事項に基いて判決をした所論の違法はない。なお、斡旋料支払の特約が当事者本人によつてなされたか、代理人によつてなされたかは、その法律効果に変りはないのであるから、原判決が被上告人と上告人代理人増谷照夫との間に本件契約がなされた旨判示したからといつて弁論主義に反するところはなく、原判決には所論のような理由不備の違法もない。」
3 批判等
1)分析
本判決は、結論としては、弁論主義違反を否定した事案であるが、理論的には不当な判決であると評価されている[1] 。すなわち、弁論主義の適用がある事実の範囲は、多少の争いがあるものの、少なくとも主要事実がこれに含まれることでは学説の一致がある。そのため、本件では代金支払請求権の発生原因事実(請求原因)が主要事実となる。そして、最高裁が判断したとおり、本件が代理人による行為であるとするときには、その請求原因は以下のとおりである。
<請求原因事実>
ア Xと代理人Aとの間での法律(代理)行為(代理行為)
イ アの際、Aが本人Yのためにすることを示したこと(顕明)
ウ アの行為に先立つYからAに対する代理権授与(代理権の発生原因事実)
エ アの債務の弁済期の到来
他方、当事者本人による契約締結を前提とする請求原因事実では、ア〜ウは必要ではない事実である。
そうすると、仮に最高裁がいうように「当事者本人によつてなされたか、代理人によつてなされたかは、その法律効果に変りはない」ということは理論的にはできないはずである。
2)適法とみる方法の模索?
大判昭和9年3月30日民集13巻418頁を参考にして考えれば、当事者の主張が概括的なものにとどまるとき、その主張の枠内において、それに含まれる事実を認定することは可能(=弁論主義に違反しない)であるとされる。その理解を前提とすれば、黙示的に表示されていたとされる範囲内では本件においても適法とされる余地はある。
確かに、処分権主義と弁論主義の関係性に鑑みれば、そのような結論には、合理性が認められそうである。
これは理論と実務あるいは準理論との問題か?
以下、【追加】令和4年10月20日
川崎直人「司法試験論文過去問演習 民事訴訟法ー実務家の事案分析と答案作成法ー」211頁(法学書院・2018年)
「判例は、本人か、代理人かによる法律効果に変わりがないというが、事案をみると、黙示の主張があったといいうる事例であり、代理を認定しても、不意打ちがなく、手続保障がある。本来釈明すべきところをしなかったことについて救済した判決である。」
[1] 山本和彦(最新重要判例250)98頁(弘文堂、2022年)