(民法)旧司法試験平成13年度第1問

Aは,Bに対し,自己所有の甲建物を売却して引き渡し,Bは,Cに対し,甲建物を, 使用目的は飲食店経営,賃料月額50万円,期間3年,給排水管の取替工事はCの負担 で行うとの約定で賃貸して引き渡した。Cが300万円をかけて甲建物の給排水管の 取替工事をした直後,Aは,Dに対し,甲建物を売却して所有権移転の登記をした。こ の事案において,DがAからBへの甲建物の売却の事実を知らなかったものとして,D がCに対してどのような請求をすることができ,これに対し,Cがどのような反論をす ることができるかについて論じた上で,BC間の法律関係についても論ぜよ。

 

<解答>

第1 DのCに対する請求の内容及びCの反論

 1 Dは、Cに対し、所有権に基づく返還請求権としての甲建物明渡請求をする。まず、Aを起点としてBとDは二重譲渡の譲受人としての地位に立つところ、その優劣は対抗要件、すなわち登記具備の先後によって決せられる(民法(以下、法名省略)177条)。

 本件では、Dは、Aから甲建物を買い受け、その旨の所有権移転登記を経由しているから、同人が第三者に対抗することができる所有権を取得する。

 2 そこで、Cは、Bとの賃貸借の合意による占有権原の抗弁を主張する。しかし、上記Dによる所有権移転登記の具備は、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁として機能し、Bは無権利者となる。そのため、Cの賃借人としての地位は、他人物賃貸借に係る賃借人としての地位と引き直すことができる。そうすると、Cは真の所有者であるDから甲建物の明渡しを求められており、また第三者対抗要件も具備していないため、上記反論は認められない。

 3 次に、Cは甲建物に300万円の給排水管の取替工事をしていることから、同建物についての費用償還請求権(196条2項本文)を有しているとして、上記権利を根拠として留置権(295条1項本文)の抗弁を主張する。

 甲建物に係る給排水管の取替は、同建物の建物としての価値を上昇させるものとして「改良」にあたり、300万円は有益費に該当する。また、Cによる有益費の支出はAD間の売買に先立っており、295条2項該当性を基礎付ける事情は見受けられない。加えて、Cによる支出はBC間の賃貸借契約において合意として定められた事項に基づきなされたものであるが、留置権は物権的権利であるから、その権利を第三者に対しても主張することが可能である。

 したがって、上記留置権の抗弁には理由があり、その反論が認められる。

 よって、DのCに対する上記請求はCDによる留置権の抗弁の権利主張により、引換給付判決の限度で認められる(その余の請求は認められない)。

第2 BC間の法律関係

  上記第1の2のとおり、BC間の賃貸借契約は他人物賃貸借契約であるところ、Bは、「物の使用及び収益をさせる義務」(559条、561条、601条)を果たすことができなかったものとして、履行不能(412条の2第1項)にあたる。

 したがって、Cは、Bに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項、2項)をすることができる。

以上